DX最大の壁は「技術」ではなく「問題発見力」—本当の難しさはどこにあるか

(B)組織基盤・業務改善・デジタル化

■ はじめに——「技術は解決した。問題は別にあった」

 DXに取り組んだ多くの企業が、数百万から数千万円を投じてシステムを導入した後に気づくことがある。「技術的には動いている。でも、期待した成果が出ない」——この状態に陥る企業は珍しくない。原因は技術の失敗ではない。「そもそも解決すべき真の問題が正確に把握されていなかった」という、より根本的な問題だ。

DX戦略の最大の壁は「技術理解」ではなく「問題発見力」だ。この逆説的な事実を理解した企業だけが、DXを真の競争力に変えられる。どれほど優れたAIやシステムも、的外れな問題解決に投入されれば意味がない。

■ 「問題発見力」とはなぜ難しいのか

問題発見力が難しい理由は、三つある。

第1の理由

 第一は「真の問題は表面に現れない」という特性だ。「売上が落ちた」「顧客から苦情が増えた」「残業が多い」——これらは「症状」であり「問題」ではない。真の問題は症状の背後にある。症状だけを見てDXで解決しようとすると、「残業を減らすために事務を自動化したが、そもそも残業の原因は非効率な会議にあった」というズレが生じる。

第2の理由

 第二は「自社の当たり前が見えない」という組織の慣性だ。長年同じやり方を続けてきた組織では、「これが普通」という感覚が支配する。外から見れば明らかな非効率も、内部からは問題として見えない。
 DXコンサルタントが「なぜこの工程が必要なのですか?」と聞くと「昔からそうしているから」という答えが返ってくる——これが「問題に気づけない」状態だ。

第3の理由

 第三は「問いを立てることが評価されない文化」だ。「問題を指摘すること」が「批判すること」と同一視され、場の空気を悪くするとされる組織では、誰も問いを立てようとしない。問題発見力は、この文化の壁に阻まれる。

■ 現場事例:医療機器販売会社G社の「問題発見から始めたDX」

 従業員80名の医療機器販売会社G社では、営業効率を上げるためにSFA(営業支援システム)の導入を検討していた。営業担当者の報告書作成に週平均4時間かかっており、「これをAIで自動化すれば営業活動時間が増える」という仮説だった。

 しかし、DX推進担当のGさんが現場に入って実態調査をしたところ、驚く事実が判明した。報告書作成の4時間のうち、実際に「報告書を書く」時間は1時間だけで、残りの3時間は「必要な情報を社内の複数のシステムから手作業でかき集める」作業だったのだ。

 真の問題は「報告書の自動化」ではなく「情報の分散と統合コスト」だった。この問いの転換から始まったDXは、社内の顧客情報・受発注情報・製品情報を一元管理するデータ基盤の整備へと方針が変わった。
 SFA導入は後回しにして、まずデータ統合基盤を構築したところ、情報収集時間が大幅に短縮され、報告書作成時間も自然と1時間以内に収まるようになった。

「何を解決すべきか」の問いを深掘りしたことが、はるかに高い投資対効果をもたらした。

■ 問題発見力を組織に根付かせる3つの仕掛け

 組織として問題発見力を高めるためには、意識的な仕掛けが必要だ。

 仕掛け①「現場観察の時間を確保する」:デスクでデータを見るだけでなく、実際の現場(工場・店舗・顧客先)を歩く時間を経営者・管理職が意図的に作る。現場の「おかしさ」を肌で感じることが、問い立ての起点になる。

 仕掛け②「なぜを5回問う習慣」:問題が提起されたとき、「なぜそれが問題か」を5回繰り返して問う。この単純なプロセスが、表面的な症状から根本原因へと思考を深める。

 仕掛け③「アウトサイダーの視点を入れる」:自社の業務に慣れすぎた人間だけでは気づけない問題が必ずある。他部署の人間や、まったく異なる業界の知見を持つ人を交えた対話が、「当たり前」を問い直すきっかけを作る。

■ まとめ——「何を解くか」を見極める力が企業の未来を変える

 AIやシステムはどれほど高性能でも、解く問題を間違えれば意味がない。「何を解くべきか」を見極める問題発見力こそが、DXの成否を決定する。この力は技術ではなく、人間の思考力・観察力・対話力から生まれる。AI時代においても、問いを立てる力は人間固有の、最も価値ある能力である。

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