スキル開発と再配置の設計で付加価値の高い仕事領域への人材シフトを行う

(C)人材育成・学習・スキル開発

■ AIが変える「誰が何をするか」の地図

 AIによる業務自動化が進む中、企業内の「誰が何をするか」という役割の地図が大きく書き換えられている。かつて人間が担っていた業務の多くがAIへ移行する一方で、AIには担えない高付加価値の業務が人間に残される。この移行を意図的に設計することが、人材戦略の核心だ。

 「従業員により付加価値の高い仕事ができるスキル習得の機会を提供し、再配置する」——これは単なる人事施策ではなく、企業の競争力を高める戦略的な投資だ。

■ 「付加価値が高い仕事」とはどこにあるか

 AI時代に人間が担うべき付加価値の高い業務は、三つの領域に集約される。

第一は「判断と設計」の領域だ。「何をすべきか」「どう組み立てるか」を決める業務。AIはデータから最適解を提案できるが、最終的な判断と責任は人間が持つ。

第二は「人間関係の構築と維持」の領域だ。顧客・取引先・チームメンバーとの信頼関係は、人間の感情・共感・誠実さによって生まれる。AIはこの関係を「管理」することはできるが「築く」ことはできない。

第三は「創造と革新」の領域だ。「まだ存在しないものを構想する」「既存の枠組みを疑い、新しい価値を提案する」——これは人間固有の知的活動だ。AIはパターンを組み合わせるが、真の創造は人間が担う。

■ 事例:銀行系金融機関社の「行員シフト計画」

 地方銀行B銀行では、2022年から窓口業務・事務処理のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)化とAI活用を進めた。3年間で行員約150名分の定型業務が自動化された。

 B銀行が当初最も心配していたのは「自動化された業務を担当していた行員の処遇」だった。しかし、代表者のB氏は「削減ではなく再配置」という方針を明確にした。

 再配置の先として設計されたのは「資産形成コンサルティング」「中小企業の経営支援」「事業承継支援」の3領域だ。これらは、顧客の人生や事業に深く関わる複雑な課題解決を必要とし、AIには代替できない人間の判断力・共感力・創造力が求められる業務だ。

 人材の再配置計画に向けて、B銀行は対象者のリスキリングを行う「18カ月のスキル転換プログラム」を設計した。座学研修と実地トレーニングを組み合わせ、150名全員が新領域で働けるスキルを習得できるよう、個人別の育成計画を作った。AIを使った学習効率化により、従来の研修より30%短い期間で転換を実現した。

 3年後、コンサルティング業務から生まれる収益が総収益の40%(以前は15%)を占めるようになった。人員を削減するのではなく「再配置」することで、個人も組織も成長した。

■ スキル開発の「3段階設計」

 再配置を成功させるためのスキル開発は3段階で設計する。

第1段階「基礎リテラシー」:新しい業務領域の基礎知識と、AIを使いこなすデジタルリテラシーを習得する。座学・e-ラーニングが中心。期間の目安:1〜3カ月。

第2段階「実践トレーニング」:ベテランのサポートを受けながら、実際の業務を少しずつ担当する。OJTが中心。失敗しても学べる環境を整える。期間の目安:3〜9カ月。

第3段階「自立と専門化」:一人で業務を担当できるレベルに達し、自分の専門性を深める。メンタリングとフィードバックで成長を加速。期間の目安:6カ月以上。

■ まとめ:「リスキリング+再配置」は人材投資の新しい形

 スキル開発と再配置は、社員にとっては「成長の機会」であり、企業にとっては「競争力への投資」だ。
 AI時代においてこの投資を怠る企業は、優秀な人材を失い、AIの恩恵を享受できず、競争力を失う。
 「人を育てて再配置する」という経営の姿勢が、AI時代に選ばれ続ける企業の条件だ。

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